イーストウッド、ドン・シーゲル作品
突撃隊 (1961) HELL IS FOR HEROES 監督/ドン・シーゲル 原作、脚本/ロバート・ピロッシェ 撮影/ハロルド・リップスタイン 音楽/レナード・ローゼンマン 出演/スティーヴ・マックィーン、ボビー・ダーリン、フェス・パーカー、ジェームズ・コバーン、ハリー・ガーディノ、ニック・アダムス
一匹狼の主人公が前線の軍隊というチームワークを必要とする状況下で如何なる運命を辿るか、という物語。只、この物語ではチームワークを乱すというだけではなく、臨機応変に対応するという側面も描かれる。アメリカに渡りたいポーランド難民が、認められたくて頑張り、残酷な人間性まで露にする場面が怖い。人物描写は上手いが、物語としての面白みはどうか。ドラマチックな展開よりもリアリズムという点に重点をおいた作品。
荒野の用心棒 (1964) PER UN PUGNO DI DOLLARI / A FISTFUL OF DOLLARS イタリア 監督/セルジオ・レオーネ(ボブ・ロバートソン名義) 原作/黒澤明、菊島隆三 脚本/セルジオ・レオーネ (ボブ・ロバートソン名義)、ドゥッチオ・テッサリ、ヴィクトル・A・カテナ、ハイメ・コマス 撮影/ジャック・ダルマース 音楽/エンニオ・モリコーネ 出演/クリント・イーストウッド、ジャン・マリア・ヴォロンテ、マリアンネ・コッホ、ヨゼフ・エッガー、マルガリータ・ロサーノ
「昔助けてやれなかった女がいる」超越した知的ヒーロー。ロバに乗って登場するところから、"マッチョなだけの西部劇"ではないことが冒頭から感じられる。舞台はメキシコのようであり、二つのグループはアメリカとメキシコ両政府軍のメタファーとも読める。しかし簡単な筋で読めば、親子を助けるというのが一番真中に来る話となる。手製の鎧を着て、撃たれても撃たれても立ち上がるイーストウッドとが不気味。相手に撃たれる/撃たせるというのが、特に西部劇では衝撃的。
『用心棒』との比較は必要ないほど、テーマを消化しきっているように思われる。つまり、『用心棒』は設定のおいて普遍的な魅力を持っているということか。
「マンハッタン無宿」 (1968)"COOGAN'S BLUFF" 監督、製作/Don Siegel 原作、脚本/Herman Miller 脚本/Dean Riesner、Howard Rodman 撮影/Bud Thackery 音楽/Lalo Schifrin 出演/Clint Eastwood、Lee J. Cobb、Susan Clark、Don Stroud、Betty Field、Tisha Sterling、Tom Tully、Melodie Johnson、ジェームズ・エドワーズ、Seymour Cassel
『ダーティー・ハリー』の監督と主演による、先立って作られた作品。渾沌としたマンハッタンの新しい文化の中に、一本筋を通す男がイーストウッド。彼の役回りとは、そうしたものだったのだろう。
そして、この作品で面白いのはキャンプ文化を批判するだけではなく"郷に入っては郷に従え"と、柔軟な態度でイーストウッド演じる田舎者を定点観測機として使わなかった所だ。時にベトナム戦争真只中。ブーツにテンガロンハットのクール・ガイをベトナムで気取る軍に対する、冷ややかな視線と感じられる。
H15/6/12
真昼の死闘 (1970) TWO MULES FOR SISTER SARA 監督/ドン・シーゲル 脚本/アルバート・マルツ 撮影/ガブリエル・フィゲロア 音楽/エンニオ・モリコーネ 出演/クリント・イーストウッド、シャーリー・マクレーン、マノロ・ファブレガス、アルベルト・モリン、アルマンド・シルヴェストレ、ジョン・ケリー、デヴィッド・エスチュアルド
主役二人の描き方は、もっと強烈でなくては効果が低いのではないか。演技の面でもそうであり、音楽等でもその点をクローズアップ出来るはずだ。要は、最後のシーンでの笑いをとれるかどうかの作品なのだから。売春宿に入ってのマクレーンの演技に比べると、イーストウッドがちょいと弱いか、それ迄の描かれ方が弱いか。戦闘シーンなぞも、僕には貧弱に見えた(もとより、興味はないのだが)。西部劇にしては異色作であるだけに、徹底した演出で観たかった。製作年は1970年。西部劇にもウーマン・リヴの流れが見える。
「白い肌の異常な夜」 (1971) "THE BEGUILED" 監督、製作/Don Siegel 原作/Thomas Cullinan 脚本/John B. Sherry、Grimes Grice 撮影/Bruce Surtees 音楽/Lalo Schifrin 出演/Clint Eastwood、Elizabeth Hartman、Jo Ann Harris、Darleen Carr、Geraldine Page、Mae Mercer、Pamelyn Ferdin、Melody Thomas Scott、Peggy Drier、Pattye Mattick
がんばって書いた原作なのだろう。問題意識が多過ぎて、映画化ではまとめきれていない。が、その心意気と製作意図を買いたい。
南北戦争時の不安な心理は、製作当時にはベトナム戦争からのそれであっただろう。家で待つ女性達の欲求不満は女子校に寄宿する「キスしてもいい歳」以上の生徒達、そして南北戦争と関係あるだろう校長の近親相姦、そして先生の潔癖性的な倫理観に表れているのだろう。そうした女性達の各々の欲望に対して、男も生き長らえる為、そして純粋なる性欲がある。
心理分析的な演出もしてあり、冷徹な描写となっている。どこか、ヨーロッパの怪談のような陰湿な雰囲気もある。
監督、主演はこの後『ダーティー・ハリー・シリーズ』を作る二人。先生役の女優が、微妙な女心を演じ切って、良かった。
「恐怖のメロディ」 (1971) "PLAY MISTY FOR ME" 監督、出演/Clint Eastwood 原作、脚本/Jo Heims 脚本/Dean Riesner 撮影/Bruce Surtees 音楽/Dee Barton 出演/Jessica Walter、Donna Mills、John Larch、Don Siegel、Jack Ging、Irene Harvey、James McEachin、Claris Taylor
個人とは、どういった存在なのか。自分のパブリック・イメージが一人歩きした場合、そのイメージは自分と言えるのか。イメージに対する責任はないのだろうか。
こういった作品は、特にアメリカに多いように思われる。今で云えばストーカーの物語だ。これは精神科医が身近な存在にあることと関係しているだろう。つまり、分裂症(サイコ)であり、重層化している自分を意識しているということ。それは政治でも言えることだろう。民主主義や自由主義等、その真実との違い。
つまり、この物語のヒーローとヒロインは、同一人物でもある。社会生活をするものにとって、個人とは社会と切り離せないものなのだ。
この作品はそういった問題を、すっきりまとめている。それだけに、ちょっと物足りない気もする。何度も挿入される海のショット、『サイコ』のジャネット・リーを思わせるヒロインと、アンソニー・パーキンスのような包丁の持ち方。
これはイーストウッドの趣味だろうか、ジャズ・フェスティバル(ジュリアン・キャノンボール・アダレイ?)のシーンが挿入される。また、ガーナー"ミスティ"が重要な役割を担う。ミスティを隔てたDJと熱狂的なファンの悲劇。
彼が私を離れて押したときに私は何をすべき
イーストウッドの処女監督作。なかなかの腕を見せてくれる。また主人公がイーストウッドでなればならないのは、最後に包丁手にした狂乱女に対し、腕っぷしイッパツで海へ突き落とすということシーンがあるからだ。
H15/6/12
「シノーラ」 "Joe kidd" 1972年 監督/John Sturges 作/エルモア・レオニード 撮影/Bluce Suretees 音楽/Lalo Schifrin 出演/Clint Eastwood、Robert Duvall、John Saxon、Don Stroud
邦題は舞台となる町の名前。原題は主人公の名前だ。シノーラといっても日本人に縁りのある訳でもなし、なんらかの理由があったのだろう。
物語は先住民族と彼等のリーダー、ルイース・チャマの命を狙う長者フランク・ハーランの争いにジョー・キッドが巻き込まれるといった筋。この作品では西部の渾沌の中、法による秩序が芽生え始めることを描きたかったのだろう。ジョー・キッドは知らずに禁猟区で鹿を撃ち、罰せられる。荒野へ法がやってくる時点が映画の始まりだ。フランク・ハーランのあまりのやり方に閉口したジョー・キッドは敵でもあるチャマに人々を救う為に自首し、裁判で裁かれろと提案する。銃撃シーンでは裁判長席に座ったジョー・キッドがハーランを撃つという西部劇らしい「力こそ正義」といった趣きも観られるが、それでも照準噐や機関車、それそから知能作戦等、力と銃以外で解決する場面が多かった。
ラロ・シフリンのエレピのアルペジオを多様した音楽が良い。
H12/5/9
ダーティハリー2 (1973) MAGNUM FORCE 監督/テッド・ポスト 脚本/ジョン・ミリアス、マイケル・チミノ 撮影/フランク・スタンリー 音楽/ラロ・シフリン 出演/クリント・イーストウッド、ハル・ホルブルック、フェルトン・ペリー、ミッチェル・ライアン、デヴィッド・ソウル、ロバート・ユーリック、ティム・マシスン、キップ・ニーヴン、ジョン・ミッチャム、アルバート・ポップウェル、クリスティーン・ホワイト、アデル・ヨシオカ、マーガレット・エイヴリー、スザンヌ・ソマーズ、モーリス・アージェント
ハード・ボイルド変奏曲。ハード・ボイルドの多くは地方都市もしくは都市の限られた範囲の物語であることが多いが、本作は大都市のド真ん中。主人公が元刑事の私立探偵ではなく、現役の刑事であり正義感が強い。ねじれた人間関係や変態性交がないが、ハード・ボイルドっぽいモテ方はある。
ポスト・ベトナム映画の走りと言えようし、また『許されざる者』で改めて描かれるタイプの物語。新しい世代の価値観/未成熟の思想の暴走の恐ろしさ。これまでの娯楽作での悪のイメージとは違った近未来SF的な白バイ隊が怖い。正義はどこにあるのか、観客に問題が突きつけられる。
テレビ放映の吹き替え/短縮版は観たことがあっただろうが、字幕では初めて観た。道路の環境音が、なんでもないけど良い。作品自体、こんなに面白かったのか、と見直した。脚本にはチミノも参加。彼はイーストウッドに見出されて有名になったらしいが、この作品は初期の仕事。
音楽は時代を感じさせるが文句なく格好良い。
サンダーボルト (1974) THUNDERBOLT AND LIGHTFOOT 監督、脚本/マイケル・チミノ 撮影/フランク・スタンリー 音楽/ディー・バートン 出演/クリント・イーストウッド、ジェフ・ブリッジス、ジョージ・ケネディ、ジェフリー・ルイス、キャサリン・バック、ゲイリー・ビューシイ、ジャック・ドッドソン、ジーン・エルマン、バートン・ギリアム、ロイ・ジェンソン、ビル・マッキーニー、ヴィク・タイバック、ダブ・テイラー、グレゴリー・ウォルコット、カレン・ラム
朝鮮戦争の影を、陽気で時に繊細、そしてハード・ボイルド・タッチに描く、典型的なアメリカン・ニュー・シネマ作品。主演格の四人が良い。演出、役者の作品理解がしっかりしているのだろう。
物語自体が朝鮮戦争を思わせる。奪ったはずの大金、水の泡と消えた努力。それらは何よりも先ずアメリカ批判。そして、哀しい勝利。
この作品を観てイーストウッドは哀しいヒーローだということに気付いた。ポスト・ハード・ボイルドと言おうか。既に、アメリカの芸術芸能は勝利が辛さを含んでいることを痛感していたことが、こういったニュー・シネマ作品で判る。
画面から感じられる雰囲気だけで、楽しめる作品だ。
H16/8/11
ダーティハリー3 (1976) THE ENFORCER 監督/ジェームズ・ファーゴ 脚本/スターリング・シリファント、ディーン・リーズナー 撮影/チャールズ・ショート 音楽/ジェリー・フィールディング 出演/クリント・イーストウッド、タイン・デイリー、ハリー・ガーディノ、ブラッドフォード・ディルマン、アルバート・ポップウェル、デヴェレン・ブックウォルター、ジョン・クロフォード、ジョン・ミッチャム、サマンサ・ドーン
ベトナム戦争後、価値観の揺らぎが感じられる。黒人指導者を知的に描いている点が嬉しくなった。揺らぎは警察内部、政界にも描かれる。最後のヘリコプターからの警告が、組織に対する強烈な批判になっている。
テロリスト達も思想より金儲けに走っているという台詞もあり、単に容赦ない奴等という風に見える。つまり、敵役として弱い。
アルカトラズといえば、本作の三年後に『アルカトラズからの脱出』に出演しているが、アルカトラズがなんらかの注目を浴びた時代だったのだろうか。
キレが弱いのが気になったが、ピッチカートの使い方が効果的な音楽。ちょっと現代音楽的になり、『ダーティハリー2』のタッチの時代ではないことが感じられる。
アウトロー (1976) THE OUTLAW JOSEY WALES 監督/クリント・イーストウッド 原作/フォレスト・カーター 脚本/フィリップ・カウフマン、ソニア・チャーナス 撮影/ブルース・サーティース 音楽/ジェリー・フィールディング 出演/クリント・イーストウッド、ジョン・ヴァーノン、ソンドラ・ロック、ビル・マッキーニー、チーフ・ダン・ジョージ、ポーラ・トルーマン、サム・ボトムズ、ジョン・デイヴィス・チャンドラー、ジェラルディン・キームス、シェブ・ウーリー、ローヤル・ダーノ、マット・クラーク、ウィル・サンプソン、カイル・イーストウッド、ジョン・ミッチャム
アメリカ建国二百年記念超大作とのことだが、正にそれに相応しい作品となっている。南北戦争を生きたジョゼイ・ウェルズの物語(実話だろうか)。
家族を、そして相棒を奪われた男ウェルズが、原住民の老人や女、夫や息子を殺された妻と娘達との家族を築く物語(皆の家/ここにアメリカ建国の隠喩が当然読める)。ウェルズを助けて戦う家族という"庶民が自らの力で生活を勝ち取る"という価値観は良きにあれ悪しきにあれ、アメリカという国を貫いているものだろう。
通奏低音として戦争の悲劇があり、登場人物の多くがその犠牲者(賞金稼ぎ達が、戦争から帰って仕事がないという状況は、ベトナム戦争後当時のアメリカに酷似する)。執拗にウェルズを追う男は、ウェルズの立場にあった者が取り得た態度にあり、つまり分身としての機能を持たせても良かっただろうが、この線は強く描かれない(ただ戦争の犠牲者であることを強調する)。終わり方には批判があっただろう。問題解決が忘却に委ねられるのみであるから。が、ここに描かれる一種の"逃げ"は、キリスト教の"エジプトへの逃避"を薄ら思い出させる。砂漠のような土地であることも効果的だ。
ブロードウェイ·ミュージカルがorginally 1960年に私の男と呼ばれていたもの
先住民に対する尊敬の念というか、気遣いというものが感じられる。政府の犠牲者として描かれ、ここに政府への"怒り"というイーストウッド作品に度々観られるモチーフが浮かび上がる。これは、追手の大将が自らのサーベルで死ぬという象徴的なシーンで、自業自得というカタチで一種の解決を得る。
この作品ではイーストウッドがとても良いのだが、これを引き立てるチーフ・ダン・ジョージも負けていない。この二人に原住民の女の珍道中がなかなか楽しい。
『ダーティハリー4』でもそうだったが、環境音(この作品の場合、虫の音)がとても良い。きっとキャメラとの相乗効果だろうが、空気が伝わってくる感じがした。また、この環境音が活きるカットの長さも良かったのだろう。
音楽も重厚で良い。
脚本にはカウフマンが参加。息子カイルも出演しているとのことだが、冒頭に登場する息子役だろうか。
ガントレット (1977) THE GAUNTLET 監督/クリント・イーストウッド 脚本/マイケル・バトラー、デニス・シュリアック 撮影/レックスフォード・メッツ 音楽/ジェリー・フィールディング 出演/クリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック、パット・ヒングル、ウィリアム・プリンス、ビル・マッキーニー、マイケル・キャヴァノー、キャロル・クック、マーラ・コーディ、ダグ・マクグラス、ジェフ・モリス、サマンサ・ドーン、ロイ・ジェンソン、ダン・ヴァディス
警官大勢による一方的な銃撃シーンが二回あり、これが印象的。ピカソ『朝鮮の悲劇』のような非人間的な警官の姿は、無論イーストウッドと好対照。イーストウッド演ずる刑事は現役でいながらにしてハードボイルドの主人公のように堕落した生活を送っている。つまり、警察内部の分裂が描かれていて、こうしたことからベトナム戦争辺りから強くなっていること、つまりアメリカ国内で上層部と市井との分裂、不信感が感じられた。
ダーティファイター (1978) EVERY WHICH WAY BUT LOOSE 監督/James Fargo 脚本/Jeremy Joe Kronsberg 撮影/Rexford Metz 音楽/Snuff Garrett 出演/Clint Eastwood、Sondra Locke、Geoffrey Lewis、Ruth Gordon、Bill McKinney、Beverly D'Angelo、Walter Barnes、Roy Jenson、George Chandler、James McEachin、William O'Connell、John Quade、Dan Vadis、Gregory Walcott、Hank Worden
イーストウッド演じる主役は、善玉というよりも豪快な田舎町のヒーローといった感じか。昔の日本の博徒といったノリなのだろう。
最後の二十分程が良い。結局酷い女のままだったロック演じるヒロインとのやり取り、賭けファイト。そして自分がノシてきた暴走族と警察(両者を比較すると面白い)に、自らの悲しみを観るラスト・シーン。軽いユーモア映画がニュー・シネマ的な様相を帯びる。
アルカトラズからの脱出 (1979) ESCAPE FROM ALCATRAZ 監督、製作/ドン・シーゲル 脚本/リチャード・タッグル 撮影/ブルース・サーティース 音楽/ジェリー・フィールディング 出演/クリント・イーストウッド、パトリック・マクグーハン、ロバーツ・ブロッサム、ジャック・チボー、フレッド・ウォード、ポール・ベンジャミン、ラリー・ハンキン、ブルース・M・フィッシャー、フランク・ロンジオ、ダニー・グローヴァー
冒頭のショットが一番良い。脱走の映画はどれも面白いが、これもそこそこ面白い。イーストウッドがなかなか良い。
『ショーシャンク』と重なる部分が多い。が、こちらの方はトーンが暗い。
ダーティファイター/燃えよ鉄拳 (1980) ANY WHICH WAY YOU CAN 監督/Buddy Van Horn 脚本/Stanford Sherman 撮影/David Worth 音楽/Snuff Garrett、Steve Dorff 出演/Clint Eastwood、Sondra Locke、Geoffrey Lewis、William Smith、Harry Guardino、Ruth Gordon、Michael Cavanaugh、Bill McKinney、Art LaFleur、Julie Brown
男の友情とスポーツマン・シップを描いた、と観ればよいのだろう。しかし深みに欠けている。その分、単純なユーモア映画になったが、吹き替えTV版ではそれなりの面白味があった。画面から感じられたカラカラの空気感は良かったが、まぁ、その程度か。
ブロンコ・ビリー (1980) BRONCO BILLY 監督/クリント・イーストウッド 脚本/デニス・ハッキン 撮影/デヴィッド・ワース 音楽/スティーヴ・ドーフ 出演/クリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック、ジェフリー・ルイス、スキャットマン・クローザース、ビル・マッキーニー、サム・ボトムズ、ダン・ヴァディス、シエラ・ペチャー、ウォルター・バーンズ、アリソン・イーストウッド
結婚届けを出すシーンでの状況説明臭い台詞にはマイったが、その後安っぽい展開が好感を持て、列車強盗の段ではドン・キホーテばりの情けなさがとても効いて「これは !!」と思わせた。ランニング・リバーの、これまたテーマをそのままの台詞も、列車強盗の後で説得力を持つ。
ビリーという男はイーストウッドが演じ続けている男と微妙に違う。彼はマッチョというよりも、義理人情のヤクザの親分タイプ。絶対に爆発すると思われるポリ公とのシーンでさえも、ぐっと押さえる事が出来る(一方、仲間に対してはちょっとしたことでクラクション鳴らして怒鳴りつけるのだが)。しかし、本当との怒りは権力や社会に対して持っていること強く感じる。
これでイーストウッドがコメディを演ずることが出来る役者だったらば、本当の傑作になったであろう。
一座はアメリカ国民の象徴であろう。そして、あのテント !
センチメンタル・アドベンチャー (1982) HONKYTONK MAN 監督、製作/クリント・イーストウッド 脚本/クランシー・カーライル 撮影/ブルース・サーティース 音楽/スティーヴ・ドーフ 出演/クリント・イーストウッド、カイル・イーストウッド、ジョン・マッキンタイア、ヴァーナ・ブルーム、マット・クラーク、アレクサ・ケニン、バリー・コービン
大人よりもよっぽどしっかりした少年、アル中で結核だが甥の眼には魅力的で愛すべきカントリー歌手、そしてひょんなことから一緒に旅行することになった少女。
人間/大人の力の限界が描かれている。突風でオジャンになる綿摘み、何に対しても情けなくだらしない叔父。車の運転を少年がするが、これなど象徴的だ。
結局、少女は妊娠していたのだろう。この映画は未来への希望をうっすらと描いているのだ。
暗闇のドライブで少年と歌手を切り返しで映すシーンが良い。お互いの顔だけが浮かび、会話は独白になり、相手の台詞は天上からの言葉の様だ。
天上からの...と言えば、ニュー・ヨークのレコード・プロデューサーは天使の様だ。突然降って湧き、歌手の最後の希望となる。歌手は自分を形にして残すことが出来た。少女が生むであろう子供とレコードだ。
"とあなたは私の赤ちゃんが必要な場合あなたは私を見つけることができます。"
ダーティハリー4 (1983) SUDDEN IMPACT 監督、製作/クリント・イーストウッド 脚本/ジョセフ・スティンソン 撮影/ブルース・サーティース 音楽/ラロ・シフリン 主題歌/ロバータ・フラック 出演/クリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック、パット・ヒングル、ブラッドフォード・ディルマン、ポール・ドレイク、ジャック・チボー、アルバート・ポップウェル、ロイス・ド・バンジー、オードリー・J・ニーナン、マイケル・カリー、マーク・キールーン、ケヴィン・メイジャー・ハワード、ベティ・フォード、ナンシー・パーソンズ
監督、製作も兼ねて、イーストウッドのヤル気が感じられる。そのヤル気はフィルムに定着している。本シリーズで抜きん出て出来が良い。
地方都市の閉ざされた人間関係による歪みが描かれ、一見、ハード・ボイルド的とも思える強姦も描かれるが、強姦/処刑という相関関係から見ると、歪みはむしろカタチとしては清算されている。だが、ハード・ボイルド・マナーを意識していることは間違いなかろう。 わざわざハリーは飛ばされて、舞台となる街に来ている。そうする理由が、ここにある。つまり、ハード・ボイルド的問題の坩堝を破壊することを、この作品に描いているのだろう。ロック演ずる人気画家は(妹への)愛をもって、ハリーは力をもって。
ハード・ボイルド云々以上にはっきり言えるのは、社会を描いているということ。画家の妹の姿が痛々しい。
画家と、敵役のおばちゃん、女が強い。この二人の強さも内的なものと外的なものをそれぞれ持ち合わせ、女が強くなったことが描かれる。これは敵役男がおばちゃんに強姦されそうになったり、その男が実は不能であるということで強調される。このエピソードは上手い。
メリハリの効いたキャメラ、ダーク・トーンを活かした画面。メリーゴーラウンドの場面もいいが、その後、時代錯誤の西部劇ヒーロー(それを演じるのがイーストウッド ! )として登場するハリー。これが成功しているのだから、ちょっと驚きだ。
ダーティハリー5 (1988) THE DEAD POOL 監督/バディ・ヴァン・ホーン 脚本/スティーヴ・シャロン 撮影/ジャック・N・グリーン 音楽/ラロ・シフリン 出演/クリント・イーストウッド、パトリシア・クラークソン、エヴァン・C・キム、リーアム・ニーソン、デヴィッド・ハント、マイケル・カリー、マイケル・グッドウィン、ダーウィン・ギレット、アンソニー・チャルノータ、ジム・キャリー
「死のプール」にしてもMTVまがいの映画にしてもラジコンにしても、これまでのハリーの敵役とは思えぬオタク玩具感覚。その玩具感覚/子供が恐怖の対称となるという、『チャイルド・プレイ』(本作と同じ88年作品)的な視点が気になる。死と恐怖が興味本位になってしまっている時代。個人の狂気が社会に反映する。マスコミ描写にも、そうした未成熟社会が反映しているようだ。
シフリンのテーマ音楽はハンコック"Rock it"っぽくて、ちと恥ずかしい。相棒が中国系だというのも、なんだか当時の流れなのかなぁ。
ピンク・キャデラック (1989) PINK CADILLAC 監督/バディ・ヴァン・ホーン 脚本/ジョン・エスコウ 撮影/ジャック・N・グリーン 音楽/スティーヴ・ドーフ 出演/クリント・イーストウッド、バーナデット・ピータース、マイケル・デ・バレス、ジェフリー・ルイス、ティモシー・カーハート ロイ・マクグィン、ジョン・デニス・ジョンストン、ジミー・F・スキャッグス、ビル・モーズリイ、マイケル・チャンピオン 、ジェームズ・クロムウェル、フランシス・フィッシャー、ジム・キャリー
イーストウッド、いつもの役所だが、初めて役者として魅力的に見えた。ネオ・ナチ、マッチョの対極を行くといった感じ。翻訳も語尾の感覚が良かった。戸田奈津子にしては、冴えてる。
話は無理があるが、まあまあの出来。ヒロインの夫がとても魅力的(非常に情けない男)な設定なのだが、この男をもっと描くべきだろう。もしくは、主役にしてみるとか。
アメリカの砂漠特有の不思議な感覚は希薄ではあるが、やはり、どこかに感じられる。
H16/4/19
「ルーキー」 1990 "The Rookie" 監督/クリント・イーストウッド 脚本/ボアズ・イェーキン 、スコット・スピーゲ 撮影/ジャック・N・グリーン 音楽/レニー・ニーハウス 出演/クリント・イーストウッド 、チャーリー・シーン 、ラウル・ジュリア 、ソニア・ブラガ 、トム・スケリット
イーストウッドの良さというのは、理解出来ない。もしくは、良くないのか。この作品は今まで山程作られた"新人刑事の成長記録"モノ。少し違うのが『許されざる者』同様、ヒーローが真の正義ではないという点か。この程度は冷戦後当たり前。
毎度お馴染みイーストウッドにカラミあり。
H13/12/26
マディソン郡の橋 (1995) THE BRIDGES OF MADISON COUNTY 監督/クリント・イーストウッド 脚本/リチャード・ラグラヴェネーズ 撮影/ジャック・N・グリーン 音楽/レニー・ニーハウス 出演/クリント・イーストウッド、メリル・ストリープ、アニー・コーレイ、ヴィクター・スレザック、ジム・ヘイニー、サラ・キャスリン・シュミット、クリストファー・クルーン、ミシェル・ベネス、カイル・イーストウッド 、フィリス・リオンズ
丁寧に作られた映画だ。ストーリーには微妙に不満が残るのだが、映像の基本的な演出がしっかりしているので見入ってしまう。
ストーリーの隠れたクライマックスは二人が恋に落ちようとしている初めての夕食シーンだ。ここで、男の考え方、つまりジャーナリズム的な物の見方や、それにひかれながらも付いて行けない女の現実が見られる。男が以前、女の故郷イタリアのバリに「あまりに美しいので」数日間、滞在したというのも、この「永遠の四日間」と対応しいてる。
音楽がいやらしいほどに泣かせる。家族が帰ってきた時に道の向こうを見てしまう女のカットなど、やはり上手い。
しかし、子供達が母親の死後、この話しを知り、自分達の生活、家族を振り替えるというストーリーは必要だったのか。アメリカらしい話しではあるが。
H9/2/27
目撃 (1997) ABSOLUTE POWER 監督/クリント・イーストウッド 原作/デヴィッド・バルダッシ 脚本/ウィリアム・ゴールドマン 撮影/ジャック・N・グリーン 音楽/レニー・ニーハウス 出演/クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、エド・ハリス、ローラ・リニー、スコット・グレン、デニス・ヘイスバート、ジュディ・デイヴィス、E・G・マーシャル、メロラ・ハーディン、リチャード・ジェンキンス、ケネス・ウェルシュ、ペニー・ジョンソン、マーク・マーゴリス、エレイン・ケイガン、アリソン・イーストウッド
いわゆる"サスペンスもの"。善くも悪くも、とても分かりやすく作ってある。大統領と愛人、盗人と愛娘という対立で描くというのは、ちょいと恥ずかしい。大統領はクリントンがモデルだろうか。
老人の哀しみ等も描く。
エド・ハリスが『羊たちの沈黙』での役割に近いところを好演している。主役でもなく、相手役でもなく、地味な位置をしっかりと押さえる役者なのだろう。
演出はデリケイト。
トゥルー・クライム (1999) TRUE CRIME 監督/クリント・イーストウッド 脚本/ラリー・グロス、ポール・ブリックマン、スティーヴン・シフ 撮影/ジャック・N・グリーン 音楽/レニー・ニーハウス 出演/クリント・イーストウッド、イザイア・ワシントン、ジェームズ・ウッズ、デニス・リアリー、ダイアン・ヴェノーラ、リサ・ゲイ・ハミルトン、ディナ・イーストウッド、ルーシー・アレクシス・リュー、シドニー・タミーア・ポワチエ、フランチェスカ・フィッシャー=イース
トウッド、マリッサ・リビシ、エリック・キング、バーナード・ヒル、マイケル・マッキーン、マイケル・ジェッター、メアリー・マコーマック、ハティ・ウィンストン、ペニー・ベイ・ブリッジス、ジョン・フィン、ライラ・ロビンズ、グレアム・ベッケル、フランシス・フィッシャー、クリスティーン・エバーソール、アンソニー・ザーブ、トム・マッゴーワン、ウィリアム・ウィンダム ニール、フランシス・リー・マッケイン、ジャック・ケーラー
裁判制度に対する批判をスッパリと切り取って(描けないのか.......いろんな意味で)人種問題、女性問題を軽く振り掛け、一匹狼の記者が走り回る。
娘の「カバ観たい」という欲望に、WASPを中心としたアメリカ人の"死刑が観たい"という欲望が重なる。
死が日常の中に普通に潜み、それが死刑へと至る男のドラマと或意味同じモノを持っている筈であり、描かれない事件のサンプルとしての作品という様相を帯びる。
死刑シーンがホロコーストを思い出させる。しかし、イーストウッドがモテ過ぎ。
H13/4/14
ブラッド・ワーク (2002) BLOOD WORK 監督、製作/クリント・イーストウッド 原作/マイクル・コナリー 脚本/ブライアン・ヘルゲランド 撮影/トム・スターン 音楽/レニー・ニーハウス 出演/クリント・イーストウッド、ジェフ・ダニエルズ、ワンダ・デ・ヘスース、ティナ・リフォード、ポール・ロドリゲス、ディラン・ウォルシュ、アンジェリカ・ヒューストン、メイソン・ルセロ、ジェリー・ベッカー、ディナ・イーストウッド、ジューン・キョウコ・ルー
平凡な作品なのだが、「やっぱりイーストウッドはいいねぇ」と話しかけられたら頷き返してしまう。間合い、時間の流れ、そういったものに気品が感じられる。そこに感動が染み込んでいる。
と、こう書くと誉め過ぎとはなるだろう。この作品にイーストウッドの基準線を見せられたような気がする。つまり、イーストウッド作品では最も地味で、見劣りのする作品。だからといって、それが駄作なのではなく、標準値が高いだけなのだ。
物語については、もう、どうでもいいじゃないか。原語を理解しない人にこそ、吹き替えじゃなくて原語で、字幕無しで見て欲しい作品。
硫黄島からの手紙 (2006) LETTERS FROM IWO JIMA 監督/クリント・イーストウッド 製作/クリント・イーストウッド、スティーヴン・スピルバーグ、ロバート・ロレンツ 原作/栗林忠道 脚本/アイリス・ヤマシタ 撮影/トム・スターン 音楽/カイル・イーストウッド、マイケル・スティーヴンス 出演/渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、松崎悠希、中村獅童、裕木奈江
個人のレベルがあり、手紙のレベルがあり、軍発表のレベルがあり、軍人の建前のレベルがある。それ以上に、もっと沢山のレベルがある。レベルとは、別な言葉では意識と言えるだろう。そうしたレベルの総体が"現実"であり、各レベル間にズレが大きい程に悲劇性は増す。
自決のシーンはショッキングだった。レベル間のズレは巨大となり、人間の存在を消してしまう。栗林中将や西は比較的ズレを合理的に納められた人格者だが、組織で上に立つ、その立場に"呑まれて"しまう。それが戦争だろう。
彼らも人間的には興味深いのだが、この作品で物語性があるといえる人物は西郷一人だ。元憲兵への誤解とその過去とも西郷の心理変化の中に融解される。つまり、異常な物語の幾つもの歯車の隙間を逃げ回るのが西郷なのだ。
このシンプルさが良いのは、戦争という、正に異常な世界が舞台だからだろう。最早、反戦を描かぬとも、戦争を淡々と描写するだけで観る者の中には感情が生まれる。
戦闘シーンまでの二宮は今時のガキとしか見えないが、戦闘が始まってからは気にならなくなった。渡辺、伊原は観ていて清々しく、役に合っていて良かった。獅童はちょっとズレてるんじゃないかな。
イーストウッド演出とは言え、日本人が不自然に描かれることは感じられなかった。ごく普通の日本兵を普通に撮れている。また、捕虜となった米兵に対する日本兵の印象の変化は、さりげないながら感動的だった。
一方、台詞が聞き取りにくかったり、役者のイントネーションがおかしかったりすることがあったが、これは音声スタッフと演出がハリウッドだからではないだろうか。この点はもっと配慮があってしかるべきと思うのだが。
父親たちの星条旗 (2006) FLAGS OF OUR FATHERS 監督/クリント・イーストウッド 製作/スティーヴン・スピルバーグ、クリント・イーストウッド、ロバート・ロレンツ 原作/ジェームズ・ブラッドリー『硫黄島の星条旗』/『父親たちの星条旗』ロン・パワーズ 脚本/ポール・ハギス、ウィリアム・ブロイルズ・Jr 撮影/トム・スターン 音楽/クリント・イーストウッド 出演/ライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ、ジェイミー・ベル、バリー・ペッパー、ポール・ウォーカー、ジョン・ベンジャミン・ヒッキー キース・ビーチ、ジョン・スラッテリー バド・ガーバー、ロバート・パトリック、ニール・マクドノー、メラニー・リンスキー、トム・マッカーシー、クリストファー・バウアー、ジュディス・アイヴィ、スコット・リーヴス、スターク・サンズ、ジョセフ・クロス、ベンジャミン・ウォーカー、マイラ・ターリー、アレッサンドロ・マストロブーノ、ジョージ・グリザード、ハーヴ・プレスネル、ジョージ・ハーン、レン・キャリオー、クリストファー・カリー、ベス・グラント、コニー・レイ、アン・ダウド、メアリー・ベス・ペイル、デヴィッド・パトリック・ケリー、ジョン・ポリト、ネッド・アイゼンバーグ、ゴードン・クラップ、カーク・B・R・ウォーラー、トム・ヴェリカ、ジェイソン・グレイ=スタンフォード
主人公の子供が当時のことをルポするという構成で、『硫黄島からの手紙』と比べると平凡な気がする。また時間構造は複雑で、すっきりしない点もある。とは言え、やはり良い作品だ。
戦場から帰ってきて直ぐに野球スタジアムの場面となるが、その次元の違いは、正にアメリカの狂気そのものだろう。政治的な役回りをさせられる"英雄達"、人種差別等、アメリカにとっての敵とは先ず自国であったことが感じられる。またアメリカというのは本当にエンターティメントの国だなぁと呆れた。
ここに描かれたことは極一部のことだが、『硫黄島からの手紙』と合わせて作られた意味は大きい。両作品とも徹底的な悪役が人物として現れることがないのも興味深い。
音楽は息子の方が上手か、本作はちょっと語り過ぎの感が強い。
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